読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

黒五八白の捨て猫たち

答えのその先、深淵に入り込んだ言の葉達を、見境もなく捨てていきます。問うとすれば、それは人の探究心だけ。

【冷や汗の流儀】JR 緑の窓口で起きた絶望

 

 

8月も後半、晩夏の残暑が残る新宿駅地下西口にある、

雑踏が織りなすJRみどりの窓口に一人僕は並んだ。

 

その時はまだ、これから起こる、

負の汗の連鎖を知る由もなかった…。

 

 

 

【冷や汗の流儀】JR 緑の窓口で起きた絶望

 

 

 

 

最初から今日はなんかおかしいと思った。

仕事を早上がりした17時半。

 

いつもの西新宿駅を素通りして、

青梅街道沿いを一路新宿駅方面へひた進む。

 

台風一過なのにまた新しい台風が来るらしい、

南東の風を引き連れて異様な蒸し暑さは都会の喧騒を刺激する。

 

一年中どこかでやっている工事現場、

魔界への入り口、誘われるようにして、

僕は、新宿の地下西口へと歩みを進めた。

 

1日乗降者数、公式記録ギネス1位の新宿駅の人は、

もはや点という人ではなく、その集合体が面を作っているような、

人の喜怒哀楽、渦を巻く雑踏の喧々囂々としたその世界に押しつぶされそうだ。

 

全方位を取り囲む煌びやかなネオンは、

人の欲望のように種々とりどりに屹立し、

誘惑に如何なる時も負けた私のお財布事情は、

常に荒唐無稽な空リアリズム、西口までの道のりの中で、

唯一の資産であった私の時計を売る交渉をバイヤーと電話越しにしていた。

 

ひとしきり、簡易査定の感触と、

実際に取引をする日取りを確かめると、

西口の地下へと続く、階段に差し掛かって間もなく、

携帯の電波は一時的に不通になったので電話は切られ、

 

集中が弛緩したタイミングで、

耳と携帯の間の豪快な汗に今日の湿度を思い、

携帯の防水機能を案じつつも次のミッションへのイメージをする。

 

通勤定期の変更だ。

 

通勤定期は旧の定期区間から新しい定期区間に変更になった場合、

旧の定期区間の契約期間内であっても途中変更が可能だそうなのだ。

 

その対応窓口はどこの駅でも問題ないが、

JR緑の窓口で実際の諸手続きを行うらしい。

 

旧定期区間が10日以上残っている場合は、

その分の金額が現金で払い戻される。

架空の臨時収入は、貧民にとってはいつでも嬉しいものだ。

 

しかし10日未満だと払い戻されないので、

これから定期変更を行う方に向けてはこの情報が、

これから続く文章より2億倍価値があるので、

よく肝に銘じていてほしい、というのがこのブログの趣旨だ。

 

そして私は、新宿駅西口JRみどりの窓口の2列のうち、

左側に並び、数分もしないうちに先頭になり、

通勤定期の変更の趣旨を手短に職員に伝えた。

 

職員の方は41歳男、早稲田大学経済学部を卒業後、

新卒でJR東日本に就職しIT・suica事業部に配属後、

新システムの戦略策定から運用ディレクションを務めたあと、

現在はJR新宿駅西口の緑の窓口で主に定期更新、継続、特急券の発行など、

日々様々なお客様との実務作業を横断的に凄まじい勢いで応対している、

高速エキスパーターとして辣腕を振るっているのが彼だ。

 

四角い眼鏡の裏に隠された、

まん丸のくりっとした目が特徴でチャームポイントと、

そして俊敏な動きに対して、声はいつも朗らかで優しく、

あくせくしたお客様を安心させてくれる、そんな彼だ。

 

いや、以上は想像というか妄想だ。

 

そんなことで、万事問題なく鋭敏に、

通勤定期変更の諸手続きを行ってくれていた彼だったが、

旧定期残額の払い戻しの作業をしている際に彼の顔色が変わった。

 

明らかに、こちらからみても微かな狼狽がみてとれる。

 

間も無く、怪訝な顔で僕に質問をした。

現在の定期は再発行されたものか?という内容であった。

 

どうやら、区間変更を行う定期が、

再発行した定期だと履歴の確認が取れず問題があるらしい。

 

再発行の定期を払い戻しし、

定期区間の変更を行うこと自体は問題ないが、

本部への書類提出など手続き上、通常の手続きより時間がかかるらしい。

 

どうやら彼によると、10〜15分はかかってしまうことだった。

手続き自体に問題がないと聞いた私は安心したし、

万事暇な私にとっては10分程度の待ちは全然たいしたことがない。

 

というのが、甘い認識だった。

 

私の後ろには、既に3〜4名ほどの方が並んでいた。

 

10分後、まだ手続きは終わらない。すぐ後ろの女性が訝しむ。地下の豊潤な湿度と温度で、私はここまで徒歩できた運動熱と相まり滝汗が流れていた。

 

15分後、まだ手続きは終わらない、でももうそろそろだと職員の話でしっている。

 

17分後、もと私の列に並んでた方が、私の横の列に並び直して手続きを完了させる。  横の人のオーラがかなり黒々しくけたたましく感じられてくる。

 

18分後、職員からもうすこしお待ちください、と言付けされる。もはや当初の想定時間はオーバーしているが、彼が高速から光速で作業をしているのがこの場から見えるので、文句は言えないし、あとどれくらいかかり、、そう、、と聞こうとした瞬間、彼は部屋の奥へと消えてしまった。その姿を見たすぐ後ろの女性から、「まだ時間かかりそうですか?」とついぞ聞かれる。ここで、曖昧な返答は嫌われると思っていたので、想定時間は超えているし、

「おそらくあと3分以内に最低でも終わると思います」といってしまった。

 

20分後、まだ終わりそうにない。なんとなく私の手続きに時間がかかっているが、不測の事態もおそらく発生しているが、何が問題かわからない。目の前にあの職員は少なくともいない。

 

22分後、自らが後ろの女性に提示したあと3分を軽くオーバーする。本当にお待たせしてすみません、、、あとちょっと、あとちょっとで、、、、、とひとしきり謝罪したが、後ろの女性は半ばあきれ顔で、怒っている風にも感じるし諦めているような顔もしているし、感情が読み取れないが、少なくとも一刻も早く職員様の作業が完了することを望むが、今の自分には何もできない、という絶望が身体中を支配し、すぐ後ろの女性、2番目でずっと待っている若いカップルに目を合わせることはできないし、なんとも言えないプレッシャーが全身を震わせ、暑さ由来の発汗とは別の冷や汗が大量に体の結節点から流れ出るのが分かった

 

27分後、手続きが完了した。その時、2番目の後ろのカップルは右の列に並び直していた。後ろの女性は、まだ私の背後に居て我慢して待っていた。現金と新しい定期券を手にした私は、後ろの女性に深々と謝罪した。もちろん、彼女の顔は見れなかった。

 

限定された選択肢、並ぶ。

並ぶことは誰も好き好むことでない、

だから過去の記憶や経験則から何処が最短か、

瞬時に判断して並び、それが全体の並びを最適化していく。

 

が、みどりの窓口で起きたそれは、

あまりに不測の事態でイレギュラーだった、

普段考えられる並ぶが通用しない、それは私にとって、

いえ、私を信じて後に着いてきてくれた女性にとってが一番の悲劇だった。

 

こんな悲劇を二度も起こさないために、

私は何ができたのであろう?と考え悶々とする日々。

 

対応してくれた職員さんが想定より時間がかかるから、

そのことを公に公言し、私の後ろに並ぶ人たちを扇動すること、

いや、これは他責だ。

 

対応してくれた職員さんの慌てふためきと、

それでもなお懸命に作業にあたっている彼を助ける、周りの同僚や先輩の協力体制、

いやこれも他責だし文化やシステムを批判することにつながる。

 

ああ、私がもっと所用時間の確認を細かに職員さんに聞いてれば、、、

私がその列をその瞬間の最適に導けたのであろうか、、、

 

 

いや、ない。