黒五八白の捨て猫たち

答えのその先、深淵に入り込んだ言の葉達を、見境もなく捨てていきます。問うとすれば、それは人の探究心だけ。

【カキちゃんす】牡蠣は食いたし胃腸は惜ししpart2

拝啓、ノロウイルス様。

 

 

 

 

牡蠣

 

それは海のミルクとも呼ばれるミネラルやタウリンをはじめとした栄養満点の二枚貝

 

お店に入れば通常メニューとは別で1ぺらのお品書きか黒板に、

本日のおすすめや季節の料理として牡蠣は軒をつらねることが多い

 

幼い時は生食で食べても何これくさいしょっぱい美味しくないだったのが、

カキフライという調理方法で徐々に味覚が飼いならされ日本酒やワインといった

マリアージュとか訳の分からないツウ風か痛風のお酒のつまみとしての地位を確立し、

終いには牡蠣の旨味の虜になってオイスターバーというかき様専心の境地に至っていく

 

 

しかしこの牡蠣には、

人の胃腸を徹底的に荒廃させる赤子をその身に宿している。

 

 

「牡蠣は食いたし胃腸は惜しし」〜ノロウイルスの悪魔降臨編〜

 

カキにやられたのはこれで2回目だった。

 

1回目は働き始めた社会人6ヶ月目の頃。

大都会東京に憧れ不安より希望、過去より未来が眩しいルンルンで、

営業職についてひたすらアポ電と訪問を繰り返したが成績はぜんぜんで散々だった。

 

それでも給料泥棒の私は学生では手にしたことないお金を抱えて、先輩社員と3人で金曜日にあろうことかオイスターバーで決起会を開き、いつも叱っていただく上司を良い意味で見返してやろうと目標達成に向けて自らを鼓舞し来週の営業活動に備え大いに酒と生牡蠣をてへぺろした。

 

2日後の日曜日に奴は猛威を奮う、

悪寒と腹痛、倦怠感、そして発熱。

 

給料をてへぺろする私だけに残された無遅刻、無欠席の野望はいとも簡単に崩れ去った。翌日の月曜日、午前半休した。そして先輩二人もことごとく奴にやられた。その後上司への報告、ことの経緯を説明した時の複雑な表情は今でも忘れられない。

 

2016年1月

 

第一次牡蠣ショックから8年という歳月が流れていた。

 

あの恐ろしい凄惨たるノロの胃腸攻撃の記憶は人々の心の中から風化していた。

 

その日は中学の学園生活をともにしたとある友人と二人でいそいそと魚のうまい居酒屋で飲んでいた夜。

 

友人は、私がかつてあどけない少年の顔の裏に次第に中二病が影を落とし他者を批判しルールを否定しそれでも自分という個にしがみつきクールぶっていたあの頃の唯一の旧友だ。

 

居酒屋のメニューは魚貝中心で、こだわりの料理にこだわるマスターが捌いたお魚に舌鼓を打ちながら、今日のお品書きに紅一点のごとく精彩を放つ牡蠣に目が移る。

 

カキちゃんす。

 

友人は牡蠣が嫌いらしく私の希望に難色を示したがそれを振り払いオーダー。嫌いだけどせっかく注文したからには食べとくかと半ば中途半端な気持ちで私と一緒に牡蠣を口に運ぶ友人。私のご満悦な表情とは対照的に友人はやっぱりというしかめ面だった。

 

この時はまだ、ノロウイルスという悪魔が私の臓腑に忍び寄っていることを知る由もない。店を出てハシゴして友人と束の間の余暇を楽しんだ。

 

異変が起きたのはその日から二日目の朝。いつもなら、朝のコーヒーとともにどさっりもりもりのトイレ事情がなぜかその日はピロピロでる水鉄砲みたいだった。

 

あとでノロウイルスというのを調べて分かったのだが。

これから書く十数行が最もこの記事で有意義であることは明白である。

 

ノロウイルスには潜伏期間があるというのはご存じであろう。
ウイルスが体内に入ってから実際の発症まで1~2日という期間だ。

 

かかってみると腹痛、発熱など急激に発症したようにようにみえるが、
潜伏期間にノロウイルスさんが何もしていないわけではない。
ウイルスに侵していく段取りがと順序がある。

 

健康を人が気付かないうちに奪っていくサイレントキラー牡蠣。

 

手口を簡単にいえば、


口から摂取して胃酸を安々と通過し、
腸に届くと腸内細菌や免疫系統のバリアを突破、
まず、腸内で爆発的に増殖し従来の環境をことごとく破壊する。

 

腸以外の胃や肝臓などの臓器はまだ活動しているが、
一方腸は代謝、吸収など本来の機能がほとんど停止する。

 

消化物が腸内に滞留、大腸が行うはずの水分も吸収できず、
第1次症状としては、うんちがほぼ水になる。

 

ただ水うんち、あるいは軟便はよほどのセルフチェックマスターでもないかぎり、
食べ過ぎや飲み過ぎの症状として頻繁にあるから牡蠣の仕業とこの時点ではわからない。

 

何よりたちが悪いのは、この時点では熱も寒気も倦怠感も殆どないので感染していることに気づかない。

 

そして最悪なのは腸が破壊された状況下で追加の飲食をすることである。今の私であれば、カキちゃんすであることを自認し、絶望を覚悟して食べてもお腹がPPになったら追加飲食を避けとにかく水を飲む、というセルフメディケーションが可能になった第二進化を遂げている。

 

が、多くの人と当時の私がそうであったように、
腸を始めとして五臓六腑の多くが本来の機能をノロウイルスによって失わされているのにも関わらず気づかず、そしてまた食べる。

 

消化吸収のできない食物は、身体にとって異物でありウイルスと闘う防御、免疫系統に集中している今、未消化・分解の状態で下から、特に追加で食事を取ると腸と胃が消化物を拒否、痙攣して逆流、上から全部でる。えろえろえろ

 

第1症状に気づかずランチでアジアン弁当を息巻いて食してしまった私。

仕事から唯一開放される昼休憩、楽しみにしていた弁当のスリランカカレーの食がなぜか今日は進まない。少し残してしまった、けれども。

 

しだいに、消化物が胃の中に滞留しお腹の張りとともに異変を感じ始める。

 

長時間に及ぶ来期戦略を決める大事な会議でありかつての上司が目の前にいる中で、悪寒痺れ発熱、そして嘔吐。みるみる内に生気は奪われ横たわりゼーハーしてたがやがて嘔吐感がやってきておえおえと吐きだし、仄暗い青白さを顔面にまといながら会議と会社を後にした。

 

会社から最寄りの西新宿駅から新宿駅について迫られる二者択一。

山手線に乗り換えるか、このまま丸ノ内線で逝くか。本来は山手線だが動いたらまたこみ上げそうな気がして丸ノ内線でステイ。しかし揺さぶれられてこれは恐らく嘔吐の未来が確実に見えた時、一つの思念が頭をよぎる。

 

ここは地下鉄、地下空間、もしここで吐いたら東京の地下はノロウイルスパンデミック、ノロ大魔王のしもべとなりウイルスによって自制心を失ったノロちゃんすを撒き散らすリビングデットな私。公共の利益を常に考えてきた高邁な精神の持ち主である私が否、そのようなことは許されない、ああ、でももう、ああむりぃ、熱いものがこみ上げてくる。その時だった。

 

四ツ谷〜四ツ谷〜

 

谷、谷

 

昔高校の先生が言ってた。地名はその地理を表す。

丸ノ内線が恐らく唯一地下空間から飛び出す谷がある、それは四ツ谷だ。

そこでなら、地下パンデミックを起こさず空中にノロ悪魔を雲散霧消させることができるかもしれないという希望。カナきり声の眼鏡サルと生徒から揶揄されていたあの先生のことを今思う。感謝。

 

扉が開くと一目散に私は外に飛び出て、改札口とは真逆のプラットフォームの一番奥の方へ走り、人気の少ないところまでくると鉄柵越しに抑えきれないこの想いを、大気を震わし轟くうおおおおおという重低音を奏でながら、吐いた。強烈に吐いた。ブツは鉄柵を超えて、私の口元を源流としながら最早滝のごとく、四ツ谷の深い谷へ落ちていった。

 

こうして世界の平和は保たれた。

 

アジアンスパイスと香草の薫香を口の中に甘酸っぱく添えて。