黒五八白の捨て猫たち

答えのその先、深淵に入り込んだ言の葉達を、見境もなく捨てていきます。問うとすれば、それは人の探究心だけ。

結婚式の予算が打合せの度に高騰していくので、全裸になることを決めた日

 

 『本日はお忙しいところ、私達のためにお集まり頂きありがとうございます。結婚式という記念すべき日に、皆様と大切な時を共に過ごせること心よりお礼申し上げます。短い時間ではありますが、少しでもお楽しみ頂けますよう、料理と演出には時間をかけて趣向を凝らしました。が、予算が思いの外、高騰したために私たちが全裸となったことをここでお許しくださいませ。本日は誠におめでとうございます』

 

新郎新婦が入場した瞬間、会場の全てが目を疑い息を飲んだ。二人とも全裸だったからだ。

 

 

周囲の困惑をもろともせず鋭く1点を見つめる彼等の眼差しに曇りはなく、それは結婚式にのぞむ二人の覚悟を十分にたたえていた。

 

和の庭園と西陽に照り輝く池の反射光がガラス窓から新郎新婦の高砂を照らす。天井は高く、柱には御影石の重厚感と間接光が高級感を一層引き立たせ、テーブルごとに高さの違う卓上装花は立体感を、茶色・緑・白でシックにきめた統一感のある会場の雰囲気の中に夫妻のこだわりが伺える。

 

そして、黄土色の全裸が、エレガントに全体と調和している。

 

悠然と構えるアバンギャルドな新郎新婦の全裸姿にご列席の皆様は最早言葉を失っていた。

 

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2ヶ月前。結婚式に向けて高まる期待と不安、準備不足による危機感、それ以上に何よりも高止まりをしらない予算高騰というモンスターが、夫妻の精神と現実を蝕んでいた。

 

料理、花、演出、引き出物。結婚式という定式全てがおもてなしファンダメンタルな要素に見えて予算を削れない。

 

あっ

 

不動の4番打者、レンタル料金のハイパフォーマーであり歩く高利貸し、衣装先輩を完全に撤廃しよう。白無垢も色打掛けもドレスも、謎の騎士衣装替え追加費用氏も、ぜーんぶ全キャンで全裸、この際白も取って、むっくんとむくちゃんでしょーーーーーぶ。

 

敢えて己の全てをさらけ出すことで、育ての親への感謝とこれまでの食育で培われた肉体を披露、そしてご来場の皆様へのもろ出の感謝を示す。そう彼等は決心したのだった。

 

二人は結婚式で全裸になることを誓った。

 

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¥拝啓、結婚式様へ。

 

幸せそうな二人が描かれた手書きのウエルカムボード(時価)を取り囲む季節感があるらしいと言われる花で3万、花々で5万、さらに枝がつくと3万。

 

茎と枝の判別もつかない私たちに突きつけられるセット割り、花々+枝プランで7万円。1万円もお得なんてやるしかないでしょ、だってお得なんだもん。と言いつつ、心のどこかに潜むもんもん。

 

予算的なベースアップ、地盤をじわじわと押し上げてくるマグマのように噴火寸前。顔面から水分がみるみる失われ土気色の土偶顏にくわえ、思考回路もショート寸前。予算削減のための自己手配という幻想。

 

齢30を超えた私はかつて5、6回は親族や友人の結婚式に有難いことに参列させてもらった。贔屓目に見ても豪華な結婚式や思いの外、質素な結婚式や、キャンプ場で行われる珍しい結婚式etc。

 

それはある意味ありがたくも悲しい比較のできる経験を得てしまったのは世の宿命である。

 

そして、いざ自分が結婚式をあげる立場になって選択に迫られた時、頭の中に充満する全体の評価を意識した見栄やプライド。結婚式に関わる演出、料理、服装、その全ての判断軸が、自分の考えではなく他人から見てどう思われるか、を客観的という名の主観的な恐れや不安をもって気づけば判断していた。

 

他人から見てこの結婚式ちょっとやばくない?と思われるリスク回避が全ての判断軸に囚われた憐れみの新郎新婦。

 

え、料理がビーフじゃなくてポークとかローストでもやばくない?あのケーキとか平面すぎてそもそも入刀できるの、できなくない笑やばくない?あの花、白すぎてかすんでるんだけど、やば全部かすみ草だよ、やばくない?引き出物が軽すぎ〜、と思ったら重すぎ〜疲れる〜という混乱、やばくない?

 

おおよそベーシックプランから始まる3プラン。やばくない?の申し子となっている私たちにとってただただベーシックプランは圧倒的なやばさを持って私たちに立ちはだかり、やばくない?にびびりまくって恐怖に怯えた私たちはワンランクあっぷっぷのぷ、予算はだだ漏らし丸。

 

ああ、、ああ、かつて私はこう言ってましたよ。

 

結婚式って人生でも数少ないイベントでしょ、それはもう既成の枠組みには囚われないね、なんなら会場も演出も全て自分で決めるし。

 

ねえちみ、常識を疑いなさいよ。自分だけが主役じゃないのよ、お世話になった方々に感謝を表す場でしょうよ。うだうだ言わずに堂々としなさいよ。みんなの前で圧倒的に両親に感謝を伝えられる場でしょうよ、、それに必要な演出がやりすぎとかやらなすぎとか個性的すぎるとか常識外れだって言うなら幾らでもいいなさいよ。私はあ・た・し。

 

とドヤ顏で言いふらしていた厨二病の虚勢男を今ここで呪いたい。あたしは結婚形式の真っ只中で、目下飼いならされNOW中です。

 

ああ、現実逃避の全裸スタイルで妄想しないと笑えない。

 

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結婚式プランナーの皆様へ。

 

打ち合わせの度に表情が消え入ってしまって暗い雰囲気にしてしまってごめんなさい。せめて裸の心でお付き合い、、、、それはつ・ま・り、、、予算交渉、、、ごめんなさい。