捨て猫マスカルポーネ

問うとすれば、それは人の探究心だけ。旧来のブログ名を捨てて、2018年は新たな語感と共に改名。重力に負けるな。

【捨て物語】アニメ企画プロット「√Octagon〜オクタゴン〜」最終章

計画?

 

 

どういうことだ?紀六の心情を察するようにアレが口を開く。

 

「ところで、君はなぜ今ここにいると思うのかい?そしてあの戦争はなぜ起きたのか分かっているのかな?」

 

 

アレの意図するところ、それは一体なんなのだ。紀六の混乱をよそに、

 

「紀六くん、頭の悪い君のために質問を変えよう。例えば、世界戦争が起こったこと、今君たちがここにいること、つまり八乙女影久が死んだこと、その全てが最初から全て計画されていたことだとすると、それは何故だと思う?」

 

紀六の脳内が灰色の影が全てを曇らせ、しかし嵐のごとく不吉な直感が全身を駆け巡る。

 

「実はね。はじめから、全て僕たちが計画してきたことなんだ、あれもそれもこれも、あの瞬間も。そして君たちに約束された役割は、もうすぐ終わろうとしている。本当にご苦労様でした。僕たちの期待に殆ど完璧に応えてくれたよ。本当にありがとう」

 

「そして、11分後にさようなら」

 

その瞬間だった。現実と非現実の境目を見失い、言い知れない憤怒に沸いた紀六の右腕が、アレの懐を目がけて振りかざされた。

 

・・・・。

 

「だめだよ、感情的になるのは良くないことだ。それも、これから創造主になる僕たちに向かって乱暴はいけない」

 

紀六の拳はアレの右胸に届いていた。が、カンタリシスの能力が発動することはなかった。

 

「無駄はよしてよ。僕たちに危害を与えようとすると、マンハイムの無限システムが反応してアポカリプスの能力を消してしまうからさ。ほら、君の右腕を見てごらん。紋章(ブレス)も消えているでしょう?」

 

紀六以外の他のアポカリプスもアレへの一斉攻撃を試みたが、全て能力をかき消されてしまったのだった。

 

「例えばアポカリプスと呼ばれるその天啓、能力もまた、極めて人為的、いや僕たちが作りだしたものだとしたら、驚きじゃないかい?」

 

得体の知れない恐怖が彼らを支配しはじめる。

 

「アポカリプスの能力は偶然ではない、必然なんだ。もっとも、君たちがこの世に生を受けてまだ間もない、自我も自他も、意識のない赤ん坊の時に脳内にちょっとした細工、というか不思議な何かを送り込んであげたんだよ」

 

と、アレが頭上の空間を指差した。しかし、そこにはただ空間がある以外、他には何も見えない。

 

「見えないだろう、見えなくて当たり前だ。君たちの遺伝的な潜在能力ではまだ当然見えないくらいのカント(量子)だからね」

 

「つまり、アポカリプスとしての能力は開花するように初めから決定づけられてたんだ。僕たちに感謝してくれよな」

 

その開花のトリガーが、バベルの党の出現だったの、とエラがつけくわえた。

 

「そしてもちろん、ディアブロスロホス(赤い悪魔)から此処に至るまでの全ての生命の運命もね。人間、科学、魔物、これらは決して別個の存在ではない、すべて同じだ、つまり君らは同士討ちを繰り返してきたんだよ」

 

紀六は現実とも非現実とも捉えられないこの世界の中で、不自然なまでに脱力し今にも虚無の世界へ崩れ去りそうだった。

 

「見えない世界は、見える世界の何倍も広く、そして深い。宇宙や地球、そのすべてを理解するのには人間には限界がある。当然、人間が作り出した科学もまた、その人間の範疇を決して超えることはない。それは当たり前だろ」

 

そこで、私たちが力を借りたのはこの「虫達」なの。とエラがうながした。

 

「例えば、この蟻をみてごらん」

 

アレが規則的に蠢く虫達のいる地面に向かって指差した。

 

「蟻さんはすごいお利口さんなんだ。ここが巣穴、そしてもう一つ巣穴がある」

 

直線上にならんだ二つの巣穴がそこにあった。

 

「蟻は、誰の指示に従っているわけでもない、ましてや人間の世界のように決められた道があるわけでもない」

 

「それでも、、、」とエラが言う。

 

「蟻の歩行ルートはなぜか分散しない。人のように脳がなくても人には見えないナノレベルのフェロモンを個体が発生させて潜在的に全体を統率し最短距離を行進する、それは偶然ではなく全ての蟻に通じる必然なんだ」

 

「つまり、僕たちが司る運命のアポカリプス。その道標は人間の理解を超えた究極の自然物の神秘を利用しているんだよ。どうだい、すごく合理的な話だろう」

 

死の宣告をアレから受けてから、8分が過ぎようとしていた。

 

「そして、私たちの運命の解は、世界のリセット。人心も環境も歴史も荒廃した世界、地上に生き残り、進化していく責任もなければ、存在意義なんてない。全ての生命を一度リセットして、平和で豊か真世界を、僕たちがつくるんだ」

 

エラが首肯する。

 

「そして、この虫たちの動きを見てみろ、運命の線はシステム通りに今も極めて順調に動いている。神は僕たちが見定めた運命を認めている。そう、僕たちは新世界の創造主になるんだ!」

 

すべての光を吸収する漆黒の絶望が、紀六ら革命軍の背中に降りかかろうとしたその時、

黒五八白がアレに向かって歩き出し、目の前までいくとアレの肩に、そっと手を置いた。

 

「失敬な。君は、ウーニウェルスムの能力を持つアポカリプスだったな。唯一我々が観測によって認めた初めての能力、しかしその能力も今を持って完全に失わせてあげます」

 

しかし、黒五八白の手の甲に刻まれた紋章(ブレス)は、アレが無限システムに命令をしても消えることはなかった。

 

「馬鹿な。どうして紋章が消えない?!」

 

黒五八白が、微笑をたたえた。

 

「この紋章は、私のお爺ちゃんが私が幼い時に絵描いてくれたのよ」

 

「な、なんだと…!?そんなはずは…。な、なんなんだお前は」

 

「いや待て、だとするとお前のその能力は、、、」

 

「私という一個の人間、いいえ、仲間の集合体から生まれた能力」

 

「それが、ウーニウェルスム」

 

「アレ、ここを見て」と動揺したエラがアレに言付ける。

 

すると、先ほどまで秩序正しく行進していた虫の群れが、

不規則に分散しはじめていたのだった。

 

「これは、、、エントロピーの再収束が起こっているだと…!」

 

そして、その虫たち、いやすべての生命体から粒子状の光の粒が溢れ出し、

光の糸は精霊となって黒五八白へと取り込まれていく。

 

やがて、黒五八白が全ての色彩を取り戻すと、

アポカリプスの能力を使って透き通るような詠唱をとなえた。

 

「セ ディ オ ルート オクタ。ウーニウェルスム」

 

と天声がマンハイムに響き渡ると、天から光が溢れんばかりに広がり、漆黒の闇を明るく照らし、泉青く湧き出て、マンハイムを支えるバベルの科学的な表皮を流し剥がしていった。

 

地球に色彩と明るさが再び存在化し、

バベルは聖なる世界樹ユグドラシル」にその姿を変えていたのだった。

 

 

 

                             ~終わり~